南アルプス“縦”走記-5/5_仙丈ヶ岳~甲斐駒ヶ岳


《7日目》の続き

明日は仙丈・・ ということは今日は両俣小屋、できれば高望池まで行きたい。高望池まで行けば次の日、混んでいるかもしれない北沢峠をパスして黒戸尾根の七丈小屋まで行くことができる。

おし、と気合を入れて挑んだこのいわゆる両俣コースが凄かった。

急斜面、というのは聞いていたのでいいのだが、コースが荒れて歩きにくい。
道が崩れて何度もコケたりオチたりして傷だらけになった。

なんとか沢まで出て安心したが、こっからもタイヘンだった。何度も沢を渡ってエライ時間がかかる。

どうしてコレが登山道として認められているんだ?と尋ねてもクルマユリは何も答えてくれなかった。

フツーの道の倍は疲れて両俣小屋に辿り着いたときにワケが分かった。

「北岳直下ルート通行止メ(台風により橋・山道崩壊)」

おーおー、確かに崩壊しとったわ。てか橋なんて1コも無かったし。

大体ナンで降り口に何も書いてねーんだヨッ!

さて高望池まで行けるだろうか?時間的にはOKだがハッキリ言ってオイラ疲れた。しかもさっきからたまに雲がかかってパラッと降る。もういいや・・ ポキッ(心が折れる音)

小屋で手続きしてテントを張る。


沢で身体を洗い、せっかく時間があるので小屋でビールを飲んでいると、ザザーッッッ!!!っとタイヘンな土砂降りに。あーこれ以上行かなくて良かった。


《8日目》

午前2時に目が覚める。星空がきれい、雨は完全にあがったようだ。

いつものように3時まで寝ててもいいが、早出すれば七丈小屋まで行けるかも知れない。支度を終えて真っ暗な中、出発する。


歩き出して2時間余り、ようやく陽が差してきた。

途中高嶺から、仙丈を確認、まったく今日もいい天気だ。奥に甲斐駒も見える。
今日中に行けるだろうか・・


仙丈から塩見に続くこの尾根を仙塩(せんしお)尾根という。長くて退屈でキライ!という人が圧倒的に多いが俺は好きだ。とくにこの辺りの針葉樹の落ち葉でふかふかになっているトレイルなんてサイコーだね、何時間でも歩けちゃうモンねっ!って感じである。


北岳方面から陽が昇る。


段々と近付いてくる頂上付近。結構暑くなってきた。昨日の雨でうっかり濡らしてしまった服に着替え、着干ししながら歩く。ヒンヤリして気持ちがいい。


 頂上手前のピーク、大仙丈で時間を計算する。う~む・・・ 正午までに北沢峠に着けば七丈小屋まで行けそうだと踏んでいたが、ギリギリ無理な感じである。まあたまには北沢峠に泊まってみるか、と強攻策を断念。昨日から妥協しまくりである。


急にのんびりモードに入り、地形図と睨めっこしているオジサンと話してみる。この人も山の達人、というようなヒトで、地図に載っていない道をいくつも踏破している。南アルプスで会う人はスゲー人が多いなあ。


頂上到着。仙丈の頂上から甲斐駒の頂上までは日帰り装備の登山客が急増、トレイル幅も広くなり、雰囲気がガラッと変わる。

小仙丈のルートは前に通ったので、仙丈小屋方面から降りてみた。

北沢峠はやはり人が多かった。キャンプ場は大丈夫だろうか・・
何列目までバスに乗れるのだろうか・・・

 お!大したことないぞ。奥はガラガラだし。

 奥は昨日熊が出た、と言うので結局手前の方に張った。

この日もまた夕方土砂降りが降って、早く山行を切り上げてよかった、という結果になった。



《9日目》

また早起きしたので4時、ヘッドライトをつけて歩き出す。随分ザックが軽くなったような気がする。星がきれいだ。今日も晴天に違いない。結局この9日間、行動中に降られたことはなかった。ザックカバーもスパッツも使わなかった。

朝のひんやりした空気の中を登ってゆく、涼しいから調子に乗っていると息が上がる。思いっきり深呼吸して肺を通ってゆく血液を冷まそうとする。この9日間、山の空気を吸い、山の水を飲んできた。

俺の身体は今、とてもキレイなのではないかと思う。食料も無補給で、全て手持ちの粗食で賄っている。しかし活力は十分で、身体もフツーに動いてくれる。人間に必要なカロリーは思っているより少ないようだ。

陽が昇ってくる。鳳凰山から北は雲海。


中央アルプス・御嶽山・乗鞍岳・北アルプスが一列に見える。槍ヶ岳までハッキリ見える。これは凄い、ここへきて一番の眺望じゃないだろうか。最後まで好天に恵まれた。


甲斐駒山頂と、右に摩利支天が見えてくる。


甲斐駒から西へ延びる尾根は鋸岳へと続く。もっと荷が軽いときに出直そう、と今回は見送り。


摩利支天への分岐、奥は仙丈。


摩利支天。ここら辺はザラザラした花崗岩でソールがとてもグリップしやすく歩きやすい。


振り返ると悪沢岳まで見える。指折り数えると5日も前に登った山だ。


さて、残るは本山行最後の山、甲斐駒ヶ岳。


山頂には20人くらいの人でちょっと賑わっていた。仙丈よりやや険しいのか、全体的には比較的人は少ない。

雲の向こうに八ヶ岳

手前から、摩利支天、鳳凰山、富士。


瑞牆山~金峰山~国師ヶ岳~甲武信ヶ岳の山なみ。


下山は長~いことで有名な黒戸尾根へ。とうとう雲下の下界へ戻るときが来た。

                       おー、里が見えてきたぞ。

 高度が下がってきて徐々に暑く、虫が多く低山ちっくになってきた。



以前は竹宇ルートを使ったので今回は横手に下りてみた。何故かこの時期にも落ち葉の多いこの道は下りでは膝に優しい。

突然アスファルトの道が現れ、あっさり山行は終わった。横手は別荘地になっているようだが、山から来た身には暑い、暑い。

タクシーを呼んで日野春駅へ、甲府まで行き、かいじに乗る。

ビールで呆然となりながら景色を眺め、帰京した。


八王子までたったの一時間、現実に戻るには短すぎる時間だった。



【行程】
7日目
農鳥小屋 5.45 - 9.10 北岳 - 13.10 両俣小屋

8日目
両俣小屋 4.00 - 10.00 仙丈ヶ岳 - 12.30 北沢峠

9日目
北沢駒仙小屋 4.00 - 9.00 甲斐駒ヶ岳 9.30 - 14.30 横手登山口